マンドリンオーケストラでの管楽器⑤

本番ステージ上での科学的考察(音出しタイミングと他パートとの駆け引き)

 練習場での音と本番のホールでの音は大きく違います。恵まれた練習室でやっていても本番ホールでは天井や観客席を含めた反響音が全然違います。そしてある程度の広さのステージになると、特に管楽器の席はステージ後方になる事が多いので、アンサンブルがさらに難しくなってきます。また、ホールの天井が高かったり、客席の配置によっても聞こえ方がかなり変わってきます。

 大体指揮者とステージ後方管楽器の位置は3~5mぐらいの距離がある場合が多く、この距離感が意外とくせ者になります。前方マンドリン群の音(特にコンサートマスター等の最前列の首席奏者の音)を後方管楽器奏者が聞く時間差がほんの僅かの差でも、観客に聞こえる差が意外と大きくなってしまう事があります。
 ここからは音の速さからくるステージ上の微妙な感覚を、多少科学的に分析してみたいと思います。(多少分かりづらいかもしれませんが、お付き合いください。)

 もし最前列の1stマンドリンの演奏を聴いて、それに合わせて演奏すると、実際には客席にはステージ上の管楽器との席間が4mとすると、その往復距離(8m)での音速の時間差が発生することになります。仮に管楽器と最前列の距離が5mあり、音速を約300m/秒とすると約0.04秒くらい遅れて観客席には聞こえます。秒数では極小ですが、音楽として聴いてみると意外と目立ちます。(テンポ120のスピード(アレグロ等)だと32分音符が0.06秒となるので聴いている人にはやはり「遅れ」がある程度わかります。)上の図で言えば「1」で出たマンドリンの音を聴き管楽器が音を出せば「2」で初めて音が出ることになり、客席で聴く人にはもうすでにマンドリンの音が到達した後、「3」の分管楽器が遅れて聞こえる、という意味です。
 これは一般的なオーケストラでも発生する事象ですが、相手がマンドリンのような「撥弦楽器」の場合は、さらにそれが著しく表れる現象です。

 次に音に合わせず指揮者の合図で合わせる場合、それぞれのスタートは「1」で一緒には出られるものの、多少縮まるとはいえ右図の「2」の分が 依然として客席には 差として残ります。さらにここでの新たな問題は、指揮者のアクションと音出しの感覚的タイミングに個人差が出てくると、これは音速以上のズレが生じる恐れが出てきます。

 従って、観客から「合っている」と思わせるためには最前列の音を聴いたり指揮者の合図で合わせるのでは間に合わず、少なくとも0.03秒以上前に「フライング」で音を出す必要があります。特にマンドリンオーケストラの場合相手は撥弦楽器なので、音の立ち上がりが早い分さらに意識的に早めに動く必要があります。この図で言えば「0」の部分が「フライング」部分です。

またホールの天井が高ければ客席までの伝わり方が一直線でなくなる恐れがあるため、さらにフライングの幅を広げる必要があります。ここで言えば「0」のフライング部分が若干長くなってしまいます。

 ステージリハーサルでは、可能な限り管楽器のまとめ者、もしくは熟練者が他の管楽器メンバーが演奏中に観客席の中央あたりに一度行って、管楽器の音の聞こえ方を確認する事をお勧めします。これを客観的に聴きどれだけの時間差が目立つかを判断し、演奏における「フライング」をどの程度にするかを考えることになります。

  要するに本番演奏で完璧を求めようとすると、 マンドリンオーケストラの管楽器は音楽に酔いながら演奏するような余裕はなく、予知力も含めた冷静沈着な判断力と実行力が求められ、 そうなってくると、技術力だけではなく「慣れ」と「読み」が大事なファクターになってきます。
(この「慣れ」と「読み」は後日ご紹介します。)

館長
1955年 服部正の長男として東京で生まれた。                     1978年 慶応義塾大学卒業(高校よりマンドリンクラブにてフルート担当)        同年    某大手電機メーカーに入社(営業業務担当)                  2015年 某大手電機メーカーグループ会社を定年退職                  現在 当館館長として「服部正」普及活動従事       

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