まず登場人物が多いのでそこから整理致します。
そもそものこの曲のきっかけとなったのが花柳寿美という日本舞踊家で新舞踊界への道を築いた方のために題名に出てくる3人の方々が台本を作り、その音楽を担当することになりました。
花柳寿美:日本舞踊家、新舞踊運動のスター(1898~1947)
蘆原英了:バレエの研究家、評論家。本曲のプロデューサー(1907~1981)
白井鐵造:宝塚歌劇団演出家、レヴューの王様との異名(1900~1983)
内田岐三雄:映画評論家、キネマ旬報同人(1901~1945)
だいたい服部正と年齢がそれほど離れていないメンバーであり、この作品が出来た頃は皆30代の血気盛んの頃と思われます。
当時はまだ服部正が作曲家として世に出て4年程度しか経ってなく、ビクターの仕事を必死にやっていたので、本作品の依頼がどういう過程で為されたかは不明です。服部正の名を一躍世に出したコンクールで入賞した「西風にひらめく旗」は翌1936年の作品であり、推測としてはNHKやビクター関係で「若い作曲家がいないか?」的な問い合わせに対してめぐり合わせた機会ではなかったかとも思えます。
譜面を見る限りでは「モーツァルトの魔笛」のようなイメージは無かったので、たまたま「魔笛」というネーミングになってしまったのでしょうか。
その舞台は比較的好評であり、服部正はこの曲がきっかけで先の3名の方々との親交を結ぶことで舞台や放送の仕事が増えてきたとの事を自著に記しておりました。特に内田氏は服部正の音楽を非常に高く評価頂いたようで、別途ご紹介した貝谷バレエ団とのコラボレーションが生まれたのもこの内田氏によるものでした。
そういった意味では服部正の音楽人生の一つの転機とも思われる作品です。
80年前の譜面ですが比較的保存状態が良く、楽譜全体も人生後半の「殴り書き」的なものとは程遠い丁寧な書き方です。