マンドリンオーケストラでの管楽器⑥(終)

マンドリンオーケストラでの管楽器の「慣れ」と「読み」

演奏旅行での服部正の指揮

 マンドリンオーケストラのコンサートで比較的管楽器が上手、と思われた場合、この奏者たちが「慣れ」と「読み」が優れているといえます。
 マンドリン、ギターという撥弦楽器といつもアンサンブルしていると、体がそのタイミングを覚えてしまうのもあり、また一方で同じ楽団にある程度いると指揮者や他のパートの動きが予測でき、いわゆる「慣れ」による「読み」が的中する確率が高くなります。
 例えば「服部正の指揮は、最後に盛り上がるところではテンポが遅くなることが多い。」とか、「この指揮者はフェルマータの伸ばしが本番ではさらに長くなる。」等を経験していると、その部分の直前で目いっぱい息を吸って備えるような対応が反射神経として動いてしまいます。また「こういうタイプの曲はティンパニが走る」とか「ピアノの部分でもメロディの所ではマンドラの音が大きめになる」等の楽団の個性まで体に叩き込まれてしまっています。
 こうなってくると様々な場面で「攻め」の演奏が可能になってきます。

 自楽団に管楽器の正団員がおらず賛助をいつも呼ばれる場合は、この部分がハンディとなります。賛助で来られた管楽器の方々は「演奏会に失礼があってはいけない」という意識が強いため、無謀なことはせずに周囲の状況を鑑みながら慎重な演奏をします。これを「守り」の演奏と言っても差し支えないでしょう。当然前にご紹介した「フライング演奏」はなかなかやりにくい状況です。
 私も別の団体に賛助で呼ばれた事が何回かありましたが、練習参加機会が正式団員よりも少なくなりがちな上、オーケストラの人間関係についても不明な部分が多く、その中で立ち回る事の大変さは自分が所属団体で演奏する何倍もの気苦労が発生しておりました。
(練習で「間違えてはいけない」と思いながら「間違えてしまった!」時も、指揮者や周囲からの叱咤は無く極めて寛大な気遣いを受けてしまうため、逆にプレッシャーが余計にかかってしまう事がしょっちゅうでした!)

 したがって、通常管楽器のメンバーがいらっしゃらず賛助をお招きする場合、出来る限り以前ご協力頂いたメンバーを継続して呼ばれた方がよろしいと思います。
 この「慣れ」と「読み」は1~2回の演奏会経験ではなかなか体得できず、練習の参加頻度以外にも他のパートも含めたコミュニケーションがどこまで浸透しているかにも大きく影響します。練習後の茶話会、飲み会にもたまに入って頂くとこの距離が縮まり、演奏の積極性がさらに進化します。特にマンドリンオーケストラでの管楽器の存在は「主流派」では全くないので、こういったマンドリン奏者などの主流派の方々とのコミュニケーションはぜひ取っていただく事をお勧めします。(「主流派」は管楽器の事をそれほどご存知でない方も多いので、、、)

KMC米国演奏旅行での服部正とメンバー

 実はKMCが昭和の時代に多方面に演奏旅行に行っていたのも、服部正の策略としてこの「慣れ」と「読み」を管楽器だけでなくオーケストラ全体に浸透させたことによるレベルアップ作戦だったのかもしれません。
 同じプログラムを何日も同じメンバーでやり、演奏会後は宿で酒を飲みながらコミュニケーションを深くする、これぞ知らぬ間に「慣れ」と「読み」が醸成されるポイントだったのでしょう。


「マンドリンオーケストラでの管楽器」と題し6回にわたり連載させていただきました。お付き合い頂きありがとうございました。
 後半の方では愚痴とも思われるような文章も点在し、非常に読み苦しい部分もあり反省しております。
 また機会がございましたらいろいろな話題をご提供していこうと思っております。

遠州鉄道社歌自筆譜面寄贈

日経新聞全面広告の一部

 皆様、現在日経新聞社にて「全国社歌コンテスト」というのをやられているのはご存知でしょうか?
企業のモチベーション強化としての「社歌」の存在が見直されている、という動きもあって、このようなイベントをやられていると思われます。服部正も夥しい社歌を作曲していたので、該当する会社が無いか先日探してみました。
 やはり「いま風」の軽いタッチの作品が多い中でも、中には「古関裕而氏」「市川昭介氏」そして服部正の弟子の「小林亜星氏」といった昭和の大作曲家の作品も並んでいました。
 服部正の作品は残念ながらエントリーはありませんでしたが、何か聞き覚えのある企業名があり、譜面整理棚から探してみると「遠州鉄道社歌」という譜面が出てきました!
早速同社に問い合わせメールを送ったところすぐに返信を頂き、丁重なコメントと譜面について大変関心を持って頂いたことを表明され、早速伺う事に致しました。

遠州鉄道新浜松駅

 訪問日、時間に余裕が出来たため「乗り鉄」の私としてはせっかくの機会ですので往復1時間の鉄道の旅を訪問前にさせていただき、沿線の景色と溌溂とした乗務員や駅務員の皆様の姿を見て非常に清々しい気持ちになり、本社にお邪魔致しました。

 本社では斉藤社長様他幹部の皆様に大変丁重にお迎え頂き、「贈呈式」だけでなく日経新聞社浜松支局長様のインタビューまでご用意されており、多少面食らってしまいましたが大変暖かくご対応頂きました。
 この社歌は1962年(昭和37年)に創業20周年に向けて広告代理店経由で「サトーハチロー先生」に作詞をして頂き、サトーハチロー先生のご紹介で服部正にお声がかかった、というようないきさつであることが分かりました。
 ただ遠州鉄道社がバスや鉄道以外の様々な分野に事業が拡大しグループ会社も多くなってきたこともあり、地元浜松ご出身のミュージシャン(村松崇継氏)に「遠鉄グループソング」の作曲を依頼し、その曲が今回の「社歌コンテスト」の応募に至ったそうです。(なかなか良い曲です。)しかしながら、同社のOB会等では当初の社歌をいまだに「歌詞カード無し」で大きな声でお歌い頂いている、という嬉しい声も聴き、その「OB会」が12月上旬にあるため、その時に皆さんにご紹介したい、との話から今回急遽の訪問となりました。

遠州鉄道社歌自筆譜

 比較的保存状態が良かったのと、サトーハチロー先生が作曲する服部正に自筆の歌詞文書コピーを送って頂いた物も保管しておりましたので、併せて寄贈させていただきました。

サトーハチロー氏自筆歌詞コピー(青写真)

 久しぶりの「自筆譜贈呈」となりましたが、大変お喜び頂きましたとともに、まだ愛唱頂いていることにこちらとしても非常に感激しております。末永く愛唱のお願いをし、気持ちよく社を後にしました。

 皆様にお願いがございます。
 もしご異論が無ければ、その「NIKKEI全国社歌コンテスト」にwebから入って頂き、服部正の作曲した作品をまだ継続愛用頂いている社として、 服部正の作品ではありませんが同社のグループソングに「清き一票」をお願いできれば、と思っております。11/29 23:59まで受け付けているようです。

遠州鉄道西鹿島駅にて

マンドリンオーケストラでの管楽器⑤

本番ステージ上での科学的考察(音出しタイミングと他パートとの駆け引き)

 練習場での音と本番のホールでの音は大きく違います。恵まれた練習室でやっていても本番ホールでは天井や観客席を含めた反響音が全然違います。そしてある程度の広さのステージになると、特に管楽器の席はステージ後方になる事が多いので、アンサンブルがさらに難しくなってきます。また、ホールの天井が高かったり、客席の配置によっても聞こえ方がかなり変わってきます。

 大体指揮者とステージ後方管楽器の位置は3~5mぐらいの距離がある場合が多く、この距離感が意外とくせ者になります。前方マンドリン群の音(特にコンサートマスター等の最前列の首席奏者の音)を後方管楽器奏者が聞く時間差がほんの僅かの差でも、観客に聞こえる差が意外と大きくなってしまう事があります。
 ここからは音の速さからくるステージ上の微妙な感覚を、多少科学的に分析してみたいと思います。(多少分かりづらいかもしれませんが、お付き合いください。)

 もし最前列の1stマンドリンの演奏を聴いて、それに合わせて演奏すると、実際には客席にはステージ上の管楽器との席間が4mとすると、その往復距離(8m)での音速の時間差が発生することになります。仮に管楽器と最前列の距離が5mあり、音速を約300m/秒とすると約0.04秒くらい遅れて観客席には聞こえます。秒数では極小ですが、音楽として聴いてみると意外と目立ちます。(テンポ120のスピード(アレグロ等)だと32分音符が0.06秒となるので聴いている人にはやはり「遅れ」がある程度わかります。)上の図で言えば「1」で出たマンドリンの音を聴き管楽器が音を出せば「2」で初めて音が出ることになり、客席で聴く人にはもうすでにマンドリンの音が到達した後、「3」の分管楽器が遅れて聞こえる、という意味です。
 これは一般的なオーケストラでも発生する事象ですが、相手がマンドリンのような「撥弦楽器」の場合は、さらにそれが著しく表れる現象です。

 次に音に合わせず指揮者の合図で合わせる場合、それぞれのスタートは「1」で一緒には出られるものの、多少縮まるとはいえ右図の「2」の分が 依然として客席には 差として残ります。さらにここでの新たな問題は、指揮者のアクションと音出しの感覚的タイミングに個人差が出てくると、これは音速以上のズレが生じる恐れが出てきます。

 従って、観客から「合っている」と思わせるためには最前列の音を聴いたり指揮者の合図で合わせるのでは間に合わず、少なくとも0.03秒以上前に「フライング」で音を出す必要があります。特にマンドリンオーケストラの場合相手は撥弦楽器なので、音の立ち上がりが早い分さらに意識的に早めに動く必要があります。この図で言えば「0」の部分が「フライング」部分です。

またホールの天井が高ければ客席までの伝わり方が一直線でなくなる恐れがあるため、さらにフライングの幅を広げる必要があります。ここで言えば「0」のフライング部分が若干長くなってしまいます。

 ステージリハーサルでは、可能な限り管楽器のまとめ者、もしくは熟練者が他の管楽器メンバーが演奏中に観客席の中央あたりに一度行って、管楽器の音の聞こえ方を確認する事をお勧めします。これを客観的に聴きどれだけの時間差が目立つかを判断し、演奏における「フライング」をどの程度にするかを考えることになります。

  要するに本番演奏で完璧を求めようとすると、 マンドリンオーケストラの管楽器は音楽に酔いながら演奏するような余裕はなく、予知力も含めた冷静沈着な判断力と実行力が求められ、 そうなってくると、技術力だけではなく「慣れ」と「読み」が大事なファクターになってきます。
(この「慣れ」と「読み」は後日ご紹介します。)

マンドリンオーケストラでの管楽器④

普通のオーケストラと違う管楽器の吹き方

 いよいよ実際の演奏での話題に入ります。
 まず、ヴァイオリン族は「擦弦楽器」という「弦をこすって音を出す」という楽器群に入ります。一方マンドリン族は「撥弦楽器」という「弦をはじいて音を出す」楽器群になります。これはどちらにも属さない管楽器群からしてみると、極めて大きな環境の変化になります。

服部正指揮グレースノーツ
(ヴァイオリンオーケストラ)
服部正指揮慶應義塾
マンドリンクラブ

 擦弦楽器は弓が弦に触れてから動かすことによって音が出るため、いわゆる「音の立ち上がり」に若干時間がかかります。これは息を吹いて管の中に入れて音を出す管楽器との「音の立ち上がり」の時間的差異は、それほど目立たないイメージです。
 ところが撥弦楽器は弦を指やピックで弾いて音を出すため、音の立ち上がりが非常に早くなります。ヴァイオリン族でも「ピチカート」という奏法がこちらに該当します。この場合管楽器との時間的差はかなりはっきりしてきます。

 一般オーケストラの管楽器の方が賛助でマンドリンオーケストラに参加される場合に、まず面食らうのがこの違いです。それでなくても後ろの方に座らされるため、指揮者からも「遅れる!」とよく指摘されます。
 特にテンポの速い曲では楽譜の小節の頭を揃えるのに極めて大変な努力が必要であり、ここでさらに指揮者がテンポの変化(アッチェレランド、リット等)をやるとなると、それに合わせるのが至難の技です。

 一般オーケストラではコンサートマスターがヴァイオリンの弓の上げ下げや体の動きが比較的大きいので、「視覚的」にも前列の弦楽器群とのテンポを合わせる事が難しくありません。一方でマンドリン奏者の演奏の動きは手元が中心なので動作が小さいため見えづらく、自分が出している音がタイミング的に合っているのかが非常に判断しづらくなっています。

 また音量もヴァイオリンとマンドリンの個々の楽器では違い、マンドリン族は比較的に音量が小さくなります。従って 小さな編成のアンサンブルで管楽器を演奏する場合、 ピアノの部分のマンドリン群の音が聴きづらく合わせるのに苦労したり、必要以上に音を抑えて吹くことになるため、一般オーケストラではそれほど難しくなかったパッセージも突然難易度が高くなる場合もあります。

 これらの解決策はやはり長年マンドリンオーケストラの中で演奏する「慣れ」と、指揮者やオーケストラの皆さんの動きの「読み」を鍛えていくしかないと思われます。特に「音の立ち上がり」の差異については、なかなか体得できるまで時間がかかるのが現状です。。
 賛助出演の管楽器の方々の場合、練習参加率も現行メンバーに比べて少なくならざるを得ず「慣れる」前に本番を迎える事が多くなります。従って演奏会本番での演奏では「仕上がりに遜色のないような」慎重な姿勢にならざるを得ません。言ってみれば「守り」の演奏になりがちです。

 次回は「音の立ち上がり」だけでない「音の時間差」について、「演奏会場でのシミュレーション」にて多少科学的にご紹介したいと思います。

マンドリンオーケストラでの管楽器③

フルート、クラリネットの特殊楽器について

例えばフルートで言えばピッコロ、クラリネットで言えばA管等についてのお話です。

ピッコロ

 まずピッコロですが、これはフルートの補完として使われる事が多く、オーケストラ曲のマンドリン版アレンジではそのまま使われる事が一般的です。
 ソロプレーヤーとしてのピッコロの登場は少ないですが、逆にフルートが苦労する場合の「逃げ道」として使う事を私は勧めています。
 クラシック曲ではヴァイオリンや金管がそれなりの音量で展開していただけるので、フルートの高音域でのトリルやピアニシモもそれほど難しくなく展開できますが、マンドリンオーケストラではさらに音量的に小さく要求される事が多く、そうなるとこの音域での演奏は極めて難しくなります。スキル的に対応が厳しくなる場合にフルートのその部分をピッコロが補完してあげる事により、全体のバランスを崩さずに進められます。
 また打楽器が多数入ってくると、フォルテシモの部分でマンドリンのメロディが埋もれてしまう事も少なくなく、そういった意味では客席にメロディラインをしっかり聞かせる意味でもピッコロをユニゾンで吹かせる事も妙案です。
  ただ問題は「フルートが上手に吹ける人」が、同じようにピッコロを巧みに演奏できるとは必ずしも限らない事です。フルートより小さくていかにも簡易な楽器にも見えますが、はっきり言ってフルート以上のスキルが必要です。息の使い方、唇の締め方、舌の動かし方がフルートとは多少違う上に、音程を安定させる事、音量をコントロールすることがフルートに比べて非常に難しくなるため、上手なピッコロ奏者を得るにはかなりハードルが高くなるのが現実です。またフルート以上に楽器の良し悪しが演奏に影響するので、ある程度の期間自分のピッコロでの実績がある方に一日の長があります。
 一方でアルトフルート等の低音系特殊楽器はマンドリンオーケストラではほとんど出番はありません。
 クラリネットも同じで、バスクラリネットについても一般オーケストラほど活躍の場面がほとんどありません。またESクラリネットというフルートで言うピッコロにあたる高音楽器も、全体バランスで目立ちすぎるため敬遠されているようです。

クラリネット
B管・A管

 クラリネットの特殊事情としては、一般オーケストラで多用される
「A管」の存在です。
 一般的にクラリネットのビギナーは「B管」というフラット系音階の楽器から始めるため、楽器の購入・流通も「B管」が主流です。「B管」とは、「C(ド)」と書いてある譜面をその指で吹くと、実際には1音下の「B音(シのフラット)」の音が出る楽器の事です。(「A管」の場合はさらに半音低い「A音(ラ)」の音が出ます。)オーケストラの譜面ではほかの楽器と調性を合わせるため移調した譜面で吹きます。(ハ長調の曲は「B管」だとニ長調の調性の譜面になります。)
 吹奏楽団は金管楽器が総じて「フラット系」の楽器なので大抵「B管」で事足ります。一般オーケストラではかなり「シャープ系」の楽曲も多いため、どうしても「A管」が必要欠くべからざるものになってしまい、B管A管2本持ちの奏者が一般的になります。
 ではマンドリンオーケストラではどうかというと、マンドリン・ギターが基本的にフラット系にあまり強くないため楽曲がどうしてもシャープ系になってしまい、B管ではかなり苦労します。特にクラシック編曲ではシャープ3個以上の曲はB管だとシャープ5個以上になってしまい、譜面にダブルシャープ、ナチュラル等が多発してきて譜読みに極めて苦労します。
 かといって「A管」をわざわざ購入するほどのコストパフォーマンスもあまり感じられないため、シャープの多い譜面に甘んじている奏者がほとんどと思います。
 注意しなくてはならないのが、クラシック編曲にてA管最低音の「実音ドのシャープ」がソロで突然出てきたりすると、B管では音を出せないので「借用」「再編曲」等の対策が必要になってきます。

 マンドリンオーケストラでの管楽器に対しては、指揮者や事務局が譜面を渡す前に奏者と所持楽器の状況、スキル等をよくコミュニケーションしておく事が、その後の練習の効率向上につながっていく事になります。(できれば選曲の時点で多少なりとも配慮があれば、管楽器奏者にとっては大変助かります。)

マンドリンオーケストラでの管楽器②

マンドリンオーケストラでの管楽器の使われ方

 曲のジャンルによって、管楽器の使われ方が様々です。

 昔のマンドリンのためのオリジナルアンサンブル曲については、当然最初から管楽器は入っていなかったため誰かが譜面に追記した形が多く存在します。
 このジャンルは基本的にはオリジナルの雰囲気を守る意味でも、大げさな管楽器の登場場面は作らないのが普通です。場合によっては自分の楽団の管楽器のスキルに合わせて、かなり難易度がばらつくアレンジになることもあります。
 一般的にはフルートは1stマンドリン、クラリネットはマンドラのサポートにまわる場合が多く、特にレガート、スラーといった音の流れを意識したメロディでマンドリン群のトレモロにきれいに被せる、というミッションが多くなります。管楽器が入ることで「厚み」と「丸み」がアンサンブルの中で加わり、音楽の流れの中でちょっとした変化が生まれます。
 ここでの最大の留意点は、マンドリンのピッチ(音程)に管楽器がしっかり合わせる事です。特にフルートはマンドリンのオクターブ上でメロディを吹かせる編曲が比較的多くありますが、高音域でピッチが高くなりがちな特性がある楽器なので、気を付けないと「調子っぱずれ」に聞こえてしまう恐れがあります。

 クラシック音楽のマンドリンオーケストラへの編曲作品の場合は、そもそものフルート、クラリネットがそのまま生きる場合が多いものの、該当楽器が存在しない場合はそれだけのために個別に奏者を呼ぶような非効率な事はせず、現存楽器へ任せる編曲が一般的です。
 例えばオーボエの美しいソロの部分は1stマンドリンに担当させ(状況によってはコンサートマスターのソロにしたりします)ホルンやファゴットの渋いソロはマンドラが担当します。金管アンサンブルが出てくるとギターがダイナミックにコードを鳴らす等、アレンジャーの腕の見せ所です。勿論フルート、クラリネットが他の管楽器パートを任される事も多々あります。
 あくまでここでは主役はマンドリン族なので、目立つソロをマンドリンパート等にもっていかれたり、その楽団、指揮者、管楽器奏者の意向で原曲からいろいろと変わってしまう場合も見受けられます。とはいうものの、オリジナル曲に比べれば管楽器の活躍場所は増えます。その分責任も重くなるため、特にソロの部分はせっかく順調に行っている音楽の流れを止めないように演奏する気遣いが必要です。

KMCアメリカ演奏旅行
アナハイム ディズニーランドでの演奏

 ポピュラー曲はそれこそ編曲が命になっており、ここではアレンジャーのセンス、力量で管楽器の見せ場や負担が大きく変わってきます。有能なアレンジャーだと演奏していてモチベーションも大いに上がりますが、大事なことはアレンジャーがどのような効果を期待して管楽器に託した編曲をしているのかを理解し、それを演奏で実現させることです。
 ここでは「譜面に忠実」もさることながら、多少のアドリブや装飾音符の追加等が許される限り出来るセンスも備わってくると、オーケストラ全体が盛り上がってきます。
 服部正は海外、地方の演奏旅行ではお客様に少しでも楽しんでいただけるように、様々な有名ポピュラー曲や日本の名曲を編曲してコンサートのプログラムに組み入れてきました。そこにはマンドリンやギターの哀愁を帯びたメロディの中にも管楽器、打楽器を効果的に入れて「飽きさせない」工夫も要所要所にしておりました。
 このような演奏旅行では旅程の後半になってくるとメンバーも大いに慣れ、様々なアドリブが飛び出したりしましたが、服部正はニヤッと笑いながら指揮をして見守っていました。

次回はフルート、クラリネットの楽器(特に特殊楽器)についてです。

マンドリンオーケストラでの管楽器①

イントロダクション & マンドリンオーケストラでの管楽器とは

 色々な方とお話しする時「フルートを吹いています。」と話すと「どこかで吹かれているんですか」と聞かれます。その時に「マンドリンオーケストラに所属しています。」と言うと、10人中8~9人は「マンドリンオーケストラにフルートがあるんだ!」と意外な顔をされてしまいます。
 フルートという楽器は管楽器の中でも非常に親近感が強く、一般的にはその音色はソロの他オーケストラやブラスバンドで耳にされることが多いのは間違いは無いものの、マンドリンオーケストラというカテゴリーが出てくるのはその筋の方ぐらいではないでしょうか。
 服部正はマンドリンオーケストラにフルートやクラリネットの管楽器を入れることはかなり若いころから積極的であり、特にフルートの吉田雅夫先生が慶應義塾現役の頃から懇意にしていた事もあり、編曲も含めた作品にフルートが入ったものが多数残されています。
 「マンドリンオーケストラ」での管楽器とはどんなものなのかを、アマチュア一般オーケストラも経験したことがある小生がご紹介していきます。

第8回KMC三田会定期演奏会より
(オーボエ、ァゴットも入った木管フル編成)

 実はこのマンドリンオーケストラの中の管楽器というのは非常に特異な存在で、オーケストラや吹奏楽とは違った「コツ」を要求される事が多く、特に管楽器メンバーを常設していないマンドリンオーケストラが賛助で参加されるときは、演奏する側も指揮をする側も受け入れるオーケストラ側もちょっとした気遣いの有無で成果が大きく変わってきます。
 ぜひこのマンドリンオーケストラで管楽器を吹かれる方、またそのオーケストラを引っ張っていく指揮者、コンサートマスター等の方々にもご参考になれば幸いです

まずマンドリンオーケストラでの管楽器は、何を使われるかについてです。

 一般的にはフルート、クラリネットが主に使われます。
 現状のマンドリンオーケストラで管楽器の常設メンバーはたいていこの2種で、他の楽器は必要な時にだけ声をかけるといった形がほとんどです。

マンドリンオケと管楽器のの相性

 ではほかの楽器がなぜ採用されにくいのでしょうか?

 まず「金管楽器」はその音量バランスや音質を考えるとマンドリン族とは異質な物として扱われています。
 ホルンはまだ「馴染み感」があり、服部正が編曲したシューベルトの「未完成」はフルート、クラリネットの他にホルンを入れています。
 他にもたまたま団員や身近にトランぺッターがいたりすると、例えばスッペの軽騎兵序曲やガーシュウィンの曲等でちょっとだけ登場させたりもしていました。
 しかしながらトランペット1本でも相当数のマンドリン族の音をかき消してしまう威力を考えると、金管楽器全般の常時配備は避ける傾向にあります。

 木管楽器でもオーボエ、ファゴットはなかなか入ってきません。
 まずどちらも一般的に他の木管楽器より奏者が多くないという現状があり、招集するにも手間がかかる事と、特にオーボエは音域、音質の双方からマンドリン族の音と「ぶつかる」恐れが多少あるため、使うことに慎重な対応をされる場合が多いようです。
 服部正はオーボエについて以前このような事を言っていました。
 「下手くそなオーボエ1本のおかげで演奏会がめちゃくちゃになった事があり、オーボエは使いたくない。」
 どうもオーボエをマンドリンオーケストラに使うことについてトラウマ的なものがあったようですね。
 (服部正の初期の作品「斑蝶」はフルートとオーボエを採用しておりました。恐らく当時「上手なオーボエ奏者」がいたのでしょう。)

 フルート、クラリネットについては、マンドリンの音質をオブラートのように包み込める音色という性格だけでなく、楽器も比較的容易に購入できることで奏者も多く、昭和初期の頃からマンドリンオーケストラにも採用されてきました。現在でも様々なマンドリンオーケストラが、この編成を引き継ぎながら活動を続けています。

 次回は「マンドリン・オーケストラ」での管楽器の使われ方についてご紹介します。

第56回 ALL KMCコンサートのご案内

来る10月22日、即位の礼の日に56回目となるALLKMCコンサートがすみだトリフォニーホールにて開かれます。
このコンサートが始まってから56年にもなりますが、相変わらず慶應義塾マンドリンクラブの中等部から大学、OBに至るそれぞれの学校、卒業生が一堂に会する演奏会が開かれている事に対し、心より敬意を表したいと思います。
服部正はそれぞれの学校にとっての卒業生、例えば「中等部」にとっては「高校」、「高校」にとっては「大学」、「大学」とってはOBOG、という繋がりを非常に大事にしてきました。
先日の三田会のコンサートの出演者を見ても、例えば高校でマンドリンクラブに入部したものの大学では入部しなかったメンバーが「マンドリンクラブ三田会OBOG」として暖かく迎え入れている背景が、この「ALL KMCコンサート」により育まれたものと思われます。

最近は部活動だけではなく、様々なサークル活動がそれぞれの学校で行われ、まさに働き方改革としての「副業」が見直されているように一人が複数の活動をしている学生が増えております。
そういった中でも「文科系部活動でかなり体育会寄り」と言われている音楽系団体としてこのように継続的に続けられていることは、それぞれの団体が日常の不断の努力によっているものとも思われ、そういった団体の皆さんの努力の成果をお見せする機会です。
お時間のある方は是非お越しください。
当資料館でも「お問い合わせ」経由にてチケットの斡旋を致しますので、お気軽にご連絡ください。
ただ一つ、事前にご留意頂きたいのは「演奏会自体が非常に長い」ことです。全部で5団体、合同演奏を含めると優に3時間は超える事になりますので、あらかじめご承知おきの上ご来場いただければ幸いです。
ちなみに、最近は「服部正」としての作品の取り上げがめっぽう少なくなっておりますが、コンサートの最後を飾る「KMCソング」だけは「ニューイヤーコンサートのラデツキー行進曲」と同じように定番アンコールで演奏される事になっております。

第56回ALL KMCコンサート

「指揮者」としての服部正 (4)

服部正は指揮をするときに「テンポ」についてはかなりこだわりがあったと思われます。
テンポのメリハリは、かなりしっかりとした差をつける事を信条としていたようです。

以前某高校のマンドリンクラブの客演指揮をするために、練習に一度訪れた事の出来事です。

予定よりも早く練習場に到着した服部正は、自分が指揮する曲では無いモーツァルトの序曲を学生指揮者が指揮している場面を見て、すかさず「そんなテンポじゃだめだ。もっと速く」とボソッと言いました。指揮者も言われた通り少し速くしましたが、服部正は「まだまだ、もっと!」と声を大にして言いました。学生指揮者もムキになってさらに速く演奏をしました。
ところが、どうでしょうか。今まで何となく凡庸の演奏に聞こえたこの曲が一気に生気が入り、演奏しているメンバーの真剣度も上がり、服部正が直接指揮してなくてもこの曲が見事に生き返りました。演奏していた高校生も爽快感を感じていたようです。(ちなみに本番当日は、またもとのテンポに戻ってしまったようですが、、、)

服部正はだいたい速めのテンポが多いですが、ゆったりした曲やテンポを揺り動かす際の遅い部分はしっかりと遅くしながらも緊張感を保った演奏を繰り広げています。

これは慶應義塾マンドリンクラブ大学の定期演奏会の練習でのことです。

マンドリンアンサンブルのオリジナル曲「ボッタキアリ作曲イル・ボート(誓い)」という曲を演奏した時の事です。
この曲はマンドリンオリジナル曲としてはやや難解な曲で、練習の時に学生指揮者もかなり手こずっていました。服部正が練習に来るようになってこの曲を始めた時に、皆の目が変わりました。それもテンポの揺り動かし方が非常に細かく、小節単位で速くしたり遅くしたりのオンパレードだったのですが、いざ音に出して弾きながら聴いているとこの曲の「難解さ」が崩れ去り、演奏者も納得・感動した一つの「芸術作品」になりました。これはさすがに老練な音楽家でないと再現できない、という事をあからさまに思い知った経験でした。

やはりこのテンポ感というのは一般素人ではなかなか掴みにくく、短時間でオーケストラをその気にさせる、という技も含めて「現場で培った」指揮法が実現できたのでしょう。

このテンポの「メリハリ」は服部正の芸術的センスという面もありましたが、実は他にも大きな背景がありそうです。
というのも、昔ラジオ番組のバックミュージックを作曲、指揮をしていた時、今と違って「録音技術」が貧困で、ほとんどが「ぶっつけ本番生放送」だったので、番組の放送時間内に収めるための段取りは「ストップウォッチ」との格闘だったようです。「巻き」が入ると「アッチェレランド」し「伸ばし」の合図では「リット」というのは日常茶飯だったようです。編曲している時もそれを意識しながら編曲し、放送本番の時は楽団の前で必死にテンポ設定をやっていたようです。それだけ「テンポ」に振り回された時代があったことも無縁ではなさそうです。
今のデジタル社会ではとても信じられない環境だったようですね。

ALL KMCコンサート ステージリハーサルでの服部正(1980年代)

リャードフ「8つのロシア民謡」(KMC三田会演奏会曲目)

以前8月24日に行われるKMC三田会定期演奏会のご案内をさせて頂きました。
いよいよ本番まで1カ月を切りましたので、再度ご案内を兼ね、そこで演奏される服部正に関係する作品をご紹介します。

この作品はそもそも「リャードフ」というロシアの作曲家でもややネームバリューが低い部類に入る作曲家の作品ですが、彼の作品は聞いてみると何となく魅力のある曲が散在しています。
ロシア音楽というと金管楽器や打楽器をフルに活用する大編成の曲があるかと思えば、弦楽合奏や室内楽で綺麗な旋律を聴かせる曲がある等、かなり個性のある作品群ですが、服部正はマンドリン音楽への編曲をそれほど積極的にはしていませんでした。オーケストラが繰り出す様々な音色の表現がマンドリンアンサンブルにはなかなかそぐわなかった、という意向がその理由の一つかもしれません。
この曲は1978年に当時の大学4年生が卒業前の最後の定期演奏会に是非やってほしい、と服部正のもとに依頼をしたのがきっかけでした。実際蓋を開けてみると、「ロシア民謡」と題されていることもあってロシア風情の満載の8つの組曲でしたが、意外とマンドリンアンサンブルには合いそうなイメージなので服部正も快諾したようです。
服部正は編曲の時に「演奏するメンバー」の力量を鑑みながら編曲をし、管楽器もマンドリンクラブの一般的な編成のフルート、クラリネットだけを入れて必要最低限の打楽器とマンドリンアンサンブルでの編曲をしております。そして上手なメンバーがそろっているパートには、若干難易度を高くしたりもして編曲に味付けをしていました。(これはこの回に限らず、生涯その姿勢は保ち続けていたようです。)
実際マンドリン版で聞いてみると「初めからマンドリンアンサンブル用にリャードフが作った」かのように聞こえる部分も多く、オーケストラ版と聴き比べしていただくのも面白いかなと思われます。

KMC三田会第8回定期演奏会につきましては引き続きご要望があれば当資料館にてもお取り扱い致しますので「問合せ」からご連絡下さい。

リャードフ 8つのロシア民謡スコア
KMC三田会演奏会

リャードフの譜面の題字は、当時「インスタントレタリング」というシール的な文房具が売られていた物を使っております。服部正自らこの文具を使っており、こういった物にも何か興味をひかれるようでした。ただ文字が多くなったりすると面倒になり下請けの小生に回してくることもありました、、、。