校歌・社歌のご紹介(4)

地域別校歌・社歌のご紹介(④北陸編)

三国北小学校校歌

「北陸地方」とは書きましたが、実際に保存されている作品を見ると富山県、石川県が見当たらず、「福井県」に圧倒的な実績が残っております。

まず校歌からご紹介します。
小学校では「三国北小学校」の校歌の譜面が残されておりました。ホームページでは1970年に校歌制定と記されており、服部正の一連の校歌としては比較的新しい作品となります。
作詞が村野四郎先生で、この方も全国各地の校歌・社歌の作詞をされた方として有名です。


高校では「若狭高校」の応援歌の譜面が残っておりました。
ここの校歌はホームページを拝見すると、何とあの山田耕筰大先生の作曲でした。
実はこの高校ご出身で大企業の幹部になられた方と服部正が懇意にしており、恐らくその関係でこの作品が作られたのではと思われます。



学校法人としての「金井学園」という組織が福井県にあり、その学園では大学として「福井工業大学」、大学の附属の形で高校として「福井高校」、中学として「福井中学」があり、それぞれの学校に校歌は存在しているようですが、服部正は「金井学園歌」という曲を作曲しておりました。

福井高校は以前から甲子園の出場も果たす文武両道の学校で、当然甲子園では「校歌」が奏され、この「金井学園歌」というのはどの場面で演奏されているのかが不明ですが、きちんとした譜面だけでなく「ソノシート」も残っておりました。

企業としては以前ご紹介した福井銀行の行歌も作曲しておりました。

以前服部正が仕事で出張した時に、搭乗した航空会社のチケットの半券を幼いころ私がお土産にもらっていましたが、今は一般旅客空港として使われていない「福井空港」の半券ももらっていたように覚えております。恐らくこういった学校、企業へ伺ったのかと思われます。

校歌・社歌のご紹介(3)

地域別校歌・社歌のご紹介(③中国編)

七尾中学校校歌ガリ版譜

中国地方にもいくつか校歌、社歌が残っております。数は多くないものの、とても校歌を大事に育んでいただいている学校が目立ち、作曲者遺族としても大変嬉しい限りです。

まず広島県廿日市市にある七尾中学校の校歌をご紹介します。
ガリ版刷りのいかにも歴史のある楽譜が残っておりました。「七尾」と言う地名から当初は石川県能登半島の「七尾」かと思ってしまいましたが、広島県の七尾中学校のホームページにしっかり校歌がアップされており確認できました。昭和24年に近隣の中学校が合併してできたとの事で、恐らくその頃に作曲されたと思います。このガリ版のイメージからも彷彿できますね。

横田中学校校歌

続いて島根県の奥出雲町にある横田中学校です。
校歌制定は昭和28年との事でしたが、その後昭和46年に近隣の中学校と合併し存続校として校歌を引き継いで頂いたようで、大変光栄な事です。
この中学のホームページの素晴らしいことは何といっても現校歌紹介に続き、合併される前の各中学校の校歌も音声付きでご紹介されている事です。
確かにその学校を卒業された方にとっては現存している校歌とは違う校歌を歌っていたわけですが、そういった方に対してのご配慮と思われ、そのお気遣いと「校歌」を大事に思う気持ちに心を打たれました。

この横田中学校の縁が取り持ったのかどうかは不明ですが、昭和37年に同じ地区の横田町の歌も服部正が作曲致しました。ここには「横田町広報」という地元の新聞に譜面と記事が載っておりました。

横田町広報(昭和37年版)

この町歌制定に際しては大音楽会がイベントとして開催されたようです。今は奥出雲町に合併され、この歌そのものがどのようになっているかは不明ですが、いずれにしろこれだけ厚遇頂いたことは服部正としても大変喜んだと思います。

その他に鳥取県には以前ご紹介した「鳥取西高校」の校歌があり、最近またこの学校の関係者から寄稿のご要請があったりして、大変ありがたいお付き合いをさせていただいております。
また、以前「無くなった会社の社歌」の欄で「扶桑相互銀行行歌」の存在をご紹介しましたが、この銀行は鳥取に本店を置く地域金融機関でした。

そういった意味ではこの地区は大変「濃い」お付き合いをさせていただいたイメージが強く、機会があったら訪れてみたいと思っております。

校歌・社歌のご紹介(2)

地域別校歌、社歌のご紹介(②九州、四国編)

前回は北の方からご紹介して参りましたが、今回は南の方のご紹介になります。
九州、四国もあまり多くの譜面が残っておりません。
その中でもいくつかご紹介させていただきます。

まず福岡県。
筑豊高校の校歌を作曲しておりました。当方には自筆譜は無いものの、作曲当時の印刷物が残っておりました。

筑豊高校校歌 印刷物


この筑豊高校さんのホームページにはご丁寧に「校歌」をご紹介するページがあるだけでなく、その校歌の音源までご用意されております。
こういったご配慮は在校生だけでなくご卒業の皆様に懐かしんでいただこうという心遣いと思いますが、このように校歌を大事にして頂いている学校に対しましては作曲者の親族としても大変ありがたく光栄に存じます。

筑豊高校HPより 校歌のページ (左下時計は別アプリです。無視願います。)

長崎県の長崎女子短期大学の母体である「鶴鳴学園園歌」の譜面も残っておりました。
ちょっと変わったところでは「日南市歌」の譜面がございましたが、これは船村徹氏の作曲に恐らく管弦楽バージョンの補作をした形跡が残っております。実は現在の日南市歌は服部克久氏のものに変更されているようで、明治~昭和の日本の著名作曲家を積極的に採用していただいているようです。

初代日南市歌
小倉記念病院歌

さらには福岡県北九州市にある「小倉記念病院」の院歌も残されておりました。

(蛇足ですが、慶應の創始者「福沢諭吉」先生も九州大分のご出身で、本投稿させていただいた1/10は福沢先生の誕生日です。慶應出身者はこの日ありがたく学校は休日扱いとなっていたことを思い出します。命日は2/3で、さすがにこの日は休日扱いではありませんが、期末試験前後の時期という事で「この日に福沢先生の墓参りをすれば進級する。」というまことしやかな言い伝えも残っていたような気がします。勿論成果の確証は全く不明ですが、、、)


四国地方はさらに情報が少なく、当方に残っている譜面で現存する組織は皆無のようです。

というのも、以前ご紹介した甲子園での名門「鳴門工業高校」の校歌を補作していたのですが、残念ながら合併して現存しておりません。とはいうものの唯一四国の貴重な実績としてご紹介致します。

旧鳴門工業高校校歌


今でも同校をご卒業された選手がプロ野球でご活躍中の方もおり、大変光栄に存じます。

新年ご挨拶、校歌・社歌のご紹介(1)

皆様、あけましておめでとうございます。
今年は子の歳ですが、服部正が亡くなったのがちょうど12年前の2008年の子歳でした。
速いものでもう一回りしてしまいました。
今年もよろしくお願いいたします。

今年はまず服部正の作品群の中でも比較的数が多い「校歌・社歌」にスポットを当ててご紹介していきたいと思います。

地域別校歌、社歌等のご紹介(①北海道、東北地区)

今回は地域という角度からご紹介していきます。

北海道はあまりお付き合いが無かったのか、残っている譜面が非常に少ない状況です。
その中で「北海道工業大学校歌」というのが直筆譜として残っておりました。

北海道工業大学校歌直筆譜



いつ頃作成されたかは譜面にも記載がないため不明ですが、譜面の筆跡から見る限りは1950~60年代ではないかと思われます。どのような経緯で作曲に及んだのか、さらにはこの歌がまだ現存しているかも不明ですが、数少ない北海道関係作品として貴重な存在です。
他には札幌テレビの関係の譜面が残っておりました。

東北地区に行くと、これは県別に大きな偏りが見られ、どうも「岩手県」とのお付き合いが非常に多く見つかりました。

小学校 沼宮内小学校(創立百周年記念讃歌)
中学校 大迫中学校(校歌)、新堀中学校(校歌)
銀行 北日本銀行銀行歌、東北銀行銀行歌(補作)

沼宮内小学校讃歌と北日本銀行行歌
(相互銀行時代の譜面)

そして宮城県に以前にもご紹介した「仙台育英高校」の校歌が存在します。

岩手県の新堀中学校はかなり前に石鳥谷中学校に合併されており今は存在せず、東北銀行の行歌は葉山氏の作曲の補作という形でお手伝いさせていただいたとの記録が残っております。
北日本銀行には直筆譜の寄贈をした際にまだ歌われている、との事をお聞きしました。仙台育英高校も甲子園で何回も勝ち名乗りで登場させていただきました。
仙台地区は服部正も生前個人的にお付き合いさせていただいた方がいらっしゃったようで、年賀状等季節のお便りをいただいていたようです。

残念ながら他県の学校、企業の関係の譜面は見つからないため、もし青森、秋田、山形、福島関係、そしてもちろん岩手、宮城関係でもほかに何らかの情報があればご教示頂けるとありがたく思っております。

服部正とクリスマス

クリスマスの時期になると様々なクリスマスソングが町中、そしてテレビでも流れまくります。
クリスマスソングは古今の定番名曲がたくさんあるので、服部正としても特段のクリスマスナンバーの作曲はなく、もっぱら編曲に勤しんでいたようです。
そんな中、昭和30年代の幼児ラジオ番組「お話出てこい」にクリスマスをテーマにした放送がいくつかあるのを譜面で発見しました。

まず昭和32年12月24~25日という、まさに当日に放送されたものが「もみの木」と「クリスマスの贈り物」と題された曲です。

1957年お話出てこい

「もみの木」は古くからドイツの民謡として歌われていた物をアウシュッツ氏他がクリスマス用に歌詞を付けたとされていますが、「お話」に出てくる服部正の曲にはそのメロディは登場しないようです。ただ、歌詞を見ると「イェス様・・・」等かなりキリスト教的イメージが出ており、昭和32年頃の幼児にとってクリスマスはかなりおごそかな雰囲気もあったのかもしれませんね。

もみの木
昭和35年12月お話出てこい サンタがいっぱい


一方で昭和35年12月19日~20日にもこの「お話」にクリスマス的テーマが扱われている譜面も残っていました。
「サンタがいっぱい」という題で歌詞が譜面に記載されていましたが、前半には「ジングルベルのレコードがジングルジングルなったとて、サンタのこないクリスマス くつしたカラッポクリスマス そんなケチなクリスマス とっとときえていっちまえ」という、なんとも穏やかでない歌詞でびっくりしました。
後半は「僕の街にはサンタがいっぱい、、、」となっていたので、ストーリー的には「サンタがやっぱり来てくれた」的なハッピーエンドのお話と想像できます。
いかんせん譜面には全体ストーリーが載っていないので推測の域を脱しませんが、仮にこれが違う町々での出来事とすると、何となく「由々しき社会問題」を彷彿させる歌詞とも思え、幼児向け番組とは言え「謎」を提供するアイテムでした!

感謝!


今年ももうすぐ終わりになります。
1年間ご覧頂きありがとうございました。
また来年も地道に情報発信を続けてまいりますので、よろしくお付き合いください。
どうぞ皆様にとって良いお年を迎えられるように、お祈りしております。

マンドリンオーケストラでの管楽器⑥(終)

マンドリンオーケストラでの管楽器の「慣れ」と「読み」

演奏旅行での服部正の指揮

 マンドリンオーケストラのコンサートで比較的管楽器が上手、と思われた場合、この奏者たちが「慣れ」と「読み」が優れているといえます。
 マンドリン、ギターという撥弦楽器といつもアンサンブルしていると、体がそのタイミングを覚えてしまうのもあり、また一方で同じ楽団にある程度いると指揮者や他のパートの動きが予測でき、いわゆる「慣れ」による「読み」が的中する確率が高くなります。
 例えば「服部正の指揮は、最後に盛り上がるところではテンポが遅くなることが多い。」とか、「この指揮者はフェルマータの伸ばしが本番ではさらに長くなる。」等を経験していると、その部分の直前で目いっぱい息を吸って備えるような対応が反射神経として動いてしまいます。また「こういうタイプの曲はティンパニが走る」とか「ピアノの部分でもメロディの所ではマンドラの音が大きめになる」等の楽団の個性まで体に叩き込まれてしまっています。
 こうなってくると様々な場面で「攻め」の演奏が可能になってきます。

 自楽団に管楽器の正団員がおらず賛助をいつも呼ばれる場合は、この部分がハンディとなります。賛助で来られた管楽器の方々は「演奏会に失礼があってはいけない」という意識が強いため、無謀なことはせずに周囲の状況を鑑みながら慎重な演奏をします。これを「守り」の演奏と言っても差し支えないでしょう。当然前にご紹介した「フライング演奏」はなかなかやりにくい状況です。
 私も別の団体に賛助で呼ばれた事が何回かありましたが、練習参加機会が正式団員よりも少なくなりがちな上、オーケストラの人間関係についても不明な部分が多く、その中で立ち回る事の大変さは自分が所属団体で演奏する何倍もの気苦労が発生しておりました。
(練習で「間違えてはいけない」と思いながら「間違えてしまった!」時も、指揮者や周囲からの叱咤は無く極めて寛大な気遣いを受けてしまうため、逆にプレッシャーが余計にかかってしまう事がしょっちゅうでした!)

 したがって、通常管楽器のメンバーがいらっしゃらず賛助をお招きする場合、出来る限り以前ご協力頂いたメンバーを継続して呼ばれた方がよろしいと思います。
 この「慣れ」と「読み」は1~2回の演奏会経験ではなかなか体得できず、練習の参加頻度以外にも他のパートも含めたコミュニケーションがどこまで浸透しているかにも大きく影響します。練習後の茶話会、飲み会にもたまに入って頂くとこの距離が縮まり、演奏の積極性がさらに進化します。特にマンドリンオーケストラでの管楽器の存在は「主流派」では全くないので、こういったマンドリン奏者などの主流派の方々とのコミュニケーションはぜひ取っていただく事をお勧めします。(「主流派」は管楽器の事をそれほどご存知でない方も多いので、、、)

KMC米国演奏旅行での服部正とメンバー

 実はKMCが昭和の時代に多方面に演奏旅行に行っていたのも、服部正の策略としてこの「慣れ」と「読み」を管楽器だけでなくオーケストラ全体に浸透させたことによるレベルアップ作戦だったのかもしれません。
 同じプログラムを何日も同じメンバーでやり、演奏会後は宿で酒を飲みながらコミュニケーションを深くする、これぞ知らぬ間に「慣れ」と「読み」が醸成されるポイントだったのでしょう。


「マンドリンオーケストラでの管楽器」と題し6回にわたり連載させていただきました。お付き合い頂きありがとうございました。
 後半の方では愚痴とも思われるような文章も点在し、非常に読み苦しい部分もあり反省しております。
 また機会がございましたらいろいろな話題をご提供していこうと思っております。

遠州鉄道社歌自筆譜面寄贈

日経新聞全面広告の一部

 皆様、現在日経新聞社にて「全国社歌コンテスト」というのをやられているのはご存知でしょうか?
企業のモチベーション強化としての「社歌」の存在が見直されている、という動きもあって、このようなイベントをやられていると思われます。服部正も夥しい社歌を作曲していたので、該当する会社が無いか先日探してみました。
 やはり「いま風」の軽いタッチの作品が多い中でも、中には「古関裕而氏」「市川昭介氏」そして服部正の弟子の「小林亜星氏」といった昭和の大作曲家の作品も並んでいました。
 服部正の作品は残念ながらエントリーはありませんでしたが、何か聞き覚えのある企業名があり、譜面整理棚から探してみると「遠州鉄道社歌」という譜面が出てきました!
早速同社に問い合わせメールを送ったところすぐに返信を頂き、丁重なコメントと譜面について大変関心を持って頂いたことを表明され、早速伺う事に致しました。

遠州鉄道新浜松駅

 訪問日、時間に余裕が出来たため「乗り鉄」の私としてはせっかくの機会ですので往復1時間の鉄道の旅を訪問前にさせていただき、沿線の景色と溌溂とした乗務員や駅務員の皆様の姿を見て非常に清々しい気持ちになり、本社にお邪魔致しました。

 本社では斉藤社長様他幹部の皆様に大変丁重にお迎え頂き、「贈呈式」だけでなく日経新聞社浜松支局長様のインタビューまでご用意されており、多少面食らってしまいましたが大変暖かくご対応頂きました。
 この社歌は1962年(昭和37年)に創業20周年に向けて広告代理店経由で「サトーハチロー先生」に作詞をして頂き、サトーハチロー先生のご紹介で服部正にお声がかかった、というようないきさつであることが分かりました。
 ただ遠州鉄道社がバスや鉄道以外の様々な分野に事業が拡大しグループ会社も多くなってきたこともあり、地元浜松ご出身のミュージシャン(村松崇継氏)に「遠鉄グループソング」の作曲を依頼し、その曲が今回の「社歌コンテスト」の応募に至ったそうです。(なかなか良い曲です。)しかしながら、同社のOB会等では当初の社歌をいまだに「歌詞カード無し」で大きな声でお歌い頂いている、という嬉しい声も聴き、その「OB会」が12月上旬にあるため、その時に皆さんにご紹介したい、との話から今回急遽の訪問となりました。

遠州鉄道社歌自筆譜

 比較的保存状態が良かったのと、サトーハチロー先生が作曲する服部正に自筆の歌詞文書コピーを送って頂いた物も保管しておりましたので、併せて寄贈させていただきました。

サトーハチロー氏自筆歌詞コピー(青写真)

 久しぶりの「自筆譜贈呈」となりましたが、大変お喜び頂きましたとともに、まだ愛唱頂いていることにこちらとしても非常に感激しております。末永く愛唱のお願いをし、気持ちよく社を後にしました。

 皆様にお願いがございます。
 もしご異論が無ければ、その「NIKKEI全国社歌コンテスト」にwebから入って頂き、服部正の作曲した作品をまだ継続愛用頂いている社として、 服部正の作品ではありませんが同社のグループソングに「清き一票」をお願いできれば、と思っております。11/29 23:59まで受け付けているようです。

遠州鉄道西鹿島駅にて

マンドリンオーケストラでの管楽器⑤

本番ステージ上での科学的考察(音出しタイミングと他パートとの駆け引き)

 練習場での音と本番のホールでの音は大きく違います。恵まれた練習室でやっていても本番ホールでは天井や観客席を含めた反響音が全然違います。そしてある程度の広さのステージになると、特に管楽器の席はステージ後方になる事が多いので、アンサンブルがさらに難しくなってきます。また、ホールの天井が高かったり、客席の配置によっても聞こえ方がかなり変わってきます。

 大体指揮者とステージ後方管楽器の位置は3~5mぐらいの距離がある場合が多く、この距離感が意外とくせ者になります。前方マンドリン群の音(特にコンサートマスター等の最前列の首席奏者の音)を後方管楽器奏者が聞く時間差がほんの僅かの差でも、観客に聞こえる差が意外と大きくなってしまう事があります。
 ここからは音の速さからくるステージ上の微妙な感覚を、多少科学的に分析してみたいと思います。(多少分かりづらいかもしれませんが、お付き合いください。)

 もし最前列の1stマンドリンの演奏を聴いて、それに合わせて演奏すると、実際には客席にはステージ上の管楽器との席間が4mとすると、その往復距離(8m)での音速の時間差が発生することになります。仮に管楽器と最前列の距離が5mあり、音速を約300m/秒とすると約0.04秒くらい遅れて観客席には聞こえます。秒数では極小ですが、音楽として聴いてみると意外と目立ちます。(テンポ120のスピード(アレグロ等)だと32分音符が0.06秒となるので聴いている人にはやはり「遅れ」がある程度わかります。)上の図で言えば「1」で出たマンドリンの音を聴き管楽器が音を出せば「2」で初めて音が出ることになり、客席で聴く人にはもうすでにマンドリンの音が到達した後、「3」の分管楽器が遅れて聞こえる、という意味です。
 これは一般的なオーケストラでも発生する事象ですが、相手がマンドリンのような「撥弦楽器」の場合は、さらにそれが著しく表れる現象です。

 次に音に合わせず指揮者の合図で合わせる場合、それぞれのスタートは「1」で一緒には出られるものの、多少縮まるとはいえ右図の「2」の分が 依然として客席には 差として残ります。さらにここでの新たな問題は、指揮者のアクションと音出しの感覚的タイミングに個人差が出てくると、これは音速以上のズレが生じる恐れが出てきます。

 従って、観客から「合っている」と思わせるためには最前列の音を聴いたり指揮者の合図で合わせるのでは間に合わず、少なくとも0.03秒以上前に「フライング」で音を出す必要があります。特にマンドリンオーケストラの場合相手は撥弦楽器なので、音の立ち上がりが早い分さらに意識的に早めに動く必要があります。この図で言えば「0」の部分が「フライング」部分です。

またホールの天井が高ければ客席までの伝わり方が一直線でなくなる恐れがあるため、さらにフライングの幅を広げる必要があります。ここで言えば「0」のフライング部分が若干長くなってしまいます。

 ステージリハーサルでは、可能な限り管楽器のまとめ者、もしくは熟練者が他の管楽器メンバーが演奏中に観客席の中央あたりに一度行って、管楽器の音の聞こえ方を確認する事をお勧めします。これを客観的に聴きどれだけの時間差が目立つかを判断し、演奏における「フライング」をどの程度にするかを考えることになります。

  要するに本番演奏で完璧を求めようとすると、 マンドリンオーケストラの管楽器は音楽に酔いながら演奏するような余裕はなく、予知力も含めた冷静沈着な判断力と実行力が求められ、 そうなってくると、技術力だけではなく「慣れ」と「読み」が大事なファクターになってきます。
(この「慣れ」と「読み」は後日ご紹介します。)

マンドリンオーケストラでの管楽器④

普通のオーケストラと違う管楽器の吹き方

 いよいよ実際の演奏での話題に入ります。
 まず、ヴァイオリン族は「擦弦楽器」という「弦をこすって音を出す」という楽器群に入ります。一方マンドリン族は「撥弦楽器」という「弦をはじいて音を出す」楽器群になります。これはどちらにも属さない管楽器群からしてみると、極めて大きな環境の変化になります。

服部正指揮グレースノーツ
(ヴァイオリンオーケストラ)
服部正指揮慶應義塾
マンドリンクラブ

 擦弦楽器は弓が弦に触れてから動かすことによって音が出るため、いわゆる「音の立ち上がり」に若干時間がかかります。これは息を吹いて管の中に入れて音を出す管楽器との「音の立ち上がり」の時間的差異は、それほど目立たないイメージです。
 ところが撥弦楽器は弦を指やピックで弾いて音を出すため、音の立ち上がりが非常に早くなります。ヴァイオリン族でも「ピチカート」という奏法がこちらに該当します。この場合管楽器との時間的差はかなりはっきりしてきます。

 一般オーケストラの管楽器の方が賛助でマンドリンオーケストラに参加される場合に、まず面食らうのがこの違いです。それでなくても後ろの方に座らされるため、指揮者からも「遅れる!」とよく指摘されます。
 特にテンポの速い曲では楽譜の小節の頭を揃えるのに極めて大変な努力が必要であり、ここでさらに指揮者がテンポの変化(アッチェレランド、リット等)をやるとなると、それに合わせるのが至難の技です。

 一般オーケストラではコンサートマスターがヴァイオリンの弓の上げ下げや体の動きが比較的大きいので、「視覚的」にも前列の弦楽器群とのテンポを合わせる事が難しくありません。一方でマンドリン奏者の演奏の動きは手元が中心なので動作が小さいため見えづらく、自分が出している音がタイミング的に合っているのかが非常に判断しづらくなっています。

 また音量もヴァイオリンとマンドリンの個々の楽器では違い、マンドリン族は比較的に音量が小さくなります。従って 小さな編成のアンサンブルで管楽器を演奏する場合、 ピアノの部分のマンドリン群の音が聴きづらく合わせるのに苦労したり、必要以上に音を抑えて吹くことになるため、一般オーケストラではそれほど難しくなかったパッセージも突然難易度が高くなる場合もあります。

 これらの解決策はやはり長年マンドリンオーケストラの中で演奏する「慣れ」と、指揮者やオーケストラの皆さんの動きの「読み」を鍛えていくしかないと思われます。特に「音の立ち上がり」の差異については、なかなか体得できるまで時間がかかるのが現状です。。
 賛助出演の管楽器の方々の場合、練習参加率も現行メンバーに比べて少なくならざるを得ず「慣れる」前に本番を迎える事が多くなります。従って演奏会本番での演奏では「仕上がりに遜色のないような」慎重な姿勢にならざるを得ません。言ってみれば「守り」の演奏になりがちです。

 次回は「音の立ち上がり」だけでない「音の時間差」について、「演奏会場でのシミュレーション」にて多少科学的にご紹介したいと思います。

マンドリンオーケストラでの管楽器③

フルート、クラリネットの特殊楽器について

例えばフルートで言えばピッコロ、クラリネットで言えばA管等についてのお話です。

ピッコロ

 まずピッコロですが、これはフルートの補完として使われる事が多く、オーケストラ曲のマンドリン版アレンジではそのまま使われる事が一般的です。
 ソロプレーヤーとしてのピッコロの登場は少ないですが、逆にフルートが苦労する場合の「逃げ道」として使う事を私は勧めています。
 クラシック曲ではヴァイオリンや金管がそれなりの音量で展開していただけるので、フルートの高音域でのトリルやピアニシモもそれほど難しくなく展開できますが、マンドリンオーケストラではさらに音量的に小さく要求される事が多く、そうなるとこの音域での演奏は極めて難しくなります。スキル的に対応が厳しくなる場合にフルートのその部分をピッコロが補完してあげる事により、全体のバランスを崩さずに進められます。
 また打楽器が多数入ってくると、フォルテシモの部分でマンドリンのメロディが埋もれてしまう事も少なくなく、そういった意味では客席にメロディラインをしっかり聞かせる意味でもピッコロをユニゾンで吹かせる事も妙案です。
  ただ問題は「フルートが上手に吹ける人」が、同じようにピッコロを巧みに演奏できるとは必ずしも限らない事です。フルートより小さくていかにも簡易な楽器にも見えますが、はっきり言ってフルート以上のスキルが必要です。息の使い方、唇の締め方、舌の動かし方がフルートとは多少違う上に、音程を安定させる事、音量をコントロールすることがフルートに比べて非常に難しくなるため、上手なピッコロ奏者を得るにはかなりハードルが高くなるのが現実です。またフルート以上に楽器の良し悪しが演奏に影響するので、ある程度の期間自分のピッコロでの実績がある方に一日の長があります。
 一方でアルトフルート等の低音系特殊楽器はマンドリンオーケストラではほとんど出番はありません。
 クラリネットも同じで、バスクラリネットについても一般オーケストラほど活躍の場面がほとんどありません。またESクラリネットというフルートで言うピッコロにあたる高音楽器も、全体バランスで目立ちすぎるため敬遠されているようです。

クラリネット
B管・A管

 クラリネットの特殊事情としては、一般オーケストラで多用される
「A管」の存在です。
 一般的にクラリネットのビギナーは「B管」というフラット系音階の楽器から始めるため、楽器の購入・流通も「B管」が主流です。「B管」とは、「C(ド)」と書いてある譜面をその指で吹くと、実際には1音下の「B音(シのフラット)」の音が出る楽器の事です。(「A管」の場合はさらに半音低い「A音(ラ)」の音が出ます。)オーケストラの譜面ではほかの楽器と調性を合わせるため移調した譜面で吹きます。(ハ長調の曲は「B管」だとニ長調の調性の譜面になります。)
 吹奏楽団は金管楽器が総じて「フラット系」の楽器なので大抵「B管」で事足ります。一般オーケストラではかなり「シャープ系」の楽曲も多いため、どうしても「A管」が必要欠くべからざるものになってしまい、B管A管2本持ちの奏者が一般的になります。
 ではマンドリンオーケストラではどうかというと、マンドリン・ギターが基本的にフラット系にあまり強くないため楽曲がどうしてもシャープ系になってしまい、B管ではかなり苦労します。特にクラシック編曲ではシャープ3個以上の曲はB管だとシャープ5個以上になってしまい、譜面にダブルシャープ、ナチュラル等が多発してきて譜読みに極めて苦労します。
 かといって「A管」をわざわざ購入するほどのコストパフォーマンスもあまり感じられないため、シャープの多い譜面に甘んじている奏者がほとんどと思います。
 注意しなくてはならないのが、クラシック編曲にてA管最低音の「実音ドのシャープ」がソロで突然出てきたりすると、B管では音を出せないので「借用」「再編曲」等の対策が必要になってきます。

 マンドリンオーケストラでの管楽器に対しては、指揮者や事務局が譜面を渡す前に奏者と所持楽器の状況、スキル等をよくコミュニケーションしておく事が、その後の練習の効率向上につながっていく事になります。(できれば選曲の時点で多少なりとも配慮があれば、管楽器奏者にとっては大変助かります。)