コンコルディア演奏会のパンフレットより
前回「マンドリンオーケストラ コンコルディア」にて服部正の「陸を行ゆく」が披露された事をお伝えいたしました。
実は本演奏会にて配布されたパンフレットを後日当方にも寄贈頂きましたが、実に内容が充実しており是非ともご紹介させて頂こうと思いました。
ご覧の通り非常にきれい、かつ厚いパンフレットで、プロ・アマ問わずこれだけしっかりした装丁のパンフレットが演奏会で配布されるのは極めて珍しく、40ページを超えた内容に目を見張ります。
普通は団体のご紹介と演奏曲目の解説程度だけが主に書かれますが、今回のパンフレットにはその作品が書かれた背景、さらには当時の日本の状況とマンドリン界の実情が事細かに描かれております。当演奏会にて指揮をされた横澤恒氏、当資料館でもお世話になりました関西学院大学マンドリンクラブOBの成相大輔氏の力作であり、特に当時の新聞や様々な文献資料のコピー等が添えられ、まさに戦前戦中におけるマンドリン界だけでなく音楽界や放送業界の実態も分かりやすく執筆されているたいへん貴重な記録と言えます。
成相氏が関西にてご活躍であることから、関西における戦中のNHK大阪放送局も絡んだ音楽界の動向がかなり細かく書かれ、一方で東京を本拠地として活動していた服部正についても比較的に詳しくご紹介いただきました。中にはこちらも知らなかった服部正の作品名が登場していたり、その広範囲なニュースソースに驚いております。
当時は皇紀2600年(西暦1940年、神武天皇即位紀元2600年)祝賀という国家的な大イベントの真っ最中であり、太平洋戦争開戦の前後で日本全体も戦争に向けた意思高揚に燃えていた時代でした。NHKも全国ネットがまだまだ十分展開出来ていない時代で各放送局が様々な形で国家プロジェクトに応えて番組内容を企画していたようで、NHK大阪放送局が「マンドリン界」にも着目したプログラムを積極的に取り組み、そんな中で生まれたのが「『空、陸、海』をゆく」の3曲の行進曲でした。
実はこのNHK大阪放送局にてご担当していた方が「京阪神ギターマンドリン連盟」の幹部にもなった方であることが書かれており、以前当資料館「戦前マンドリン作品」でご紹介した「服部正作曲『海の組曲』」の譜面に「なぜNHK大阪放送局のハンコが押されていたのか?」の謎に一つの解答が得られたようにも思えました。
というのも、1943年10月に大阪で行われた「関西マンドリン、ギター合同演奏会」にこの3つの行進曲だけでなく「服部正の『海の組曲』も演奏された」との記事が書かれ、しかもその時は服部正が病気の為来阪できず、当時NHK大阪専属オーケストラの常任指揮者だった朝比奈隆氏が指揮を執ったとの事まで克明に書かれておりました。当日の模様はNHK大阪のラジオでも放送されたらしいですが、(「海の組曲」まで放送されたかどうかは不明です。)恐らく来られなかった服部正にNHKが気遣って、当日使った譜面等を1式送付してきた可能性が高く、服部正も送られてきた譜面を無造作に廃棄処分するわけにもいかず、何故か晩年まで捨てられずに残っていたのではないかと思われます。
今回「陸をゆく」という作品の掘り起こしだけでなく、この「海の組曲」にからむ謎解きにも大きな手掛かりを頂戴した事に横澤様はじめ「マンドリンオーケストラ コンコルディア」各位、成相様に対しあらためて心より感謝の気持ちを表したいと存じます。ありがとうございました。