服部正は以前より作曲の際は「鉛筆」をほとんど使わず、モンブランの「万年筆」を常用していたことはこのホームページでもご紹介しました。
しかしながらやはり「人の子」なので間違える事も往々にしてあります。当時は今のような「修正液」「修正テープ」や「修正ペン」なるような便利な代物は勿論ありません。ではどうしたか?
「早書き」のレッテルを貼られている服部正としては時間節約のためにかなり荒技をやっていました。
まずサンプルとして「バス通り裏」(第49回~54回)のアンサンブル譜面をご紹介しましょう。このほんの数ページでも「修正術」が多用されていることが分かります。
まず初っ端の第1小節目からピアノのパートの部分(赤丸)に何となくうさんくさい音符が並んでいます。これは多少の音の違いなので強引にペンで直しながらも、恐らく実際のスタジオの音取りの段階で服部正自らが口頭で修正指示もしたのではと思います。
次は「砂消し」というインクの「消しゴム」的な道具の登場です。(赤丸部分)
これはインクを削ると言うよりも「紙を削る」ので何回も同じ場所で使ったり裏側の同じ位置の譜面にも使用したりすると紙そのものが破れてしまう恐れがあるだけでなく、結構消すのに時間と手間がかかるので、あまり服部正は多用していなかったようです。この譜面でも手間のわりにきれいに消えていない事が分かります。
上下に空いた五線部分があるとそこにスイッチするやり方もあります。
この赤丸の部分はフルートパートですが最上段に書かれていたのでたまたまその上の行が空いていたりすると使える芸当です。(それよりも赤の矢印の交差が気になりますが、、、)
そして服部正の最も良く使っていた芸当「切り貼り紙」が登場します。
この赤丸部分を良く見て頂くと一番左側の約1小節分が最上段から最下段まで切り貼りされていることが分かります。この譜面はちょっと特異な例で普通は1~2段だけの切り貼りが結構多用されています。服部正はこのような対処をするために同仕様の白紙の五線紙の予備を常に持っており、間違えた時にそそくさと切り貼りし、その上で修正後の譜面を書いているようでした。
服部正の執務机には「五線紙」と「万年筆」と「インク」だけでなく、「はさみ」と「糊」も必須アイテムであったようです。
(この写真では「はさみ」も「糊」も隠しているようですが、、、)