この曲は1973年11月の慶應義塾大学マンドリンクラブの定期演奏会に向けて作曲されました。とはいうものの、3曲ある中で「鷺の歌」だけは過去作曲したものであり、前後に「鳥の目覚め」「小鳥のロンド」という曲を改めて作曲して「鳥の組曲」という名前にしたようです。
服部正は以前から「鳥」をテーマにした曲を作っており、戦前では「青い鷺」「鶯」そしてテレビドラマ「向こう三軒両隣」で評判になった「いきな燕」等かなり力を入れていました。「ヤン坊・ニン坊・トン坊」でも飯沢匡氏の脚本で登場する「トマト」という「カラス」のための曲もいくつか書いており、特にこだわりは無いものの結構な数の曲を作っていたと思われます。
この頃は服部正の創作意欲は特にマンドリンオーケストラの作品が多く、完全なオリジナルの「若人の歌」やイタリアの名曲をメドレーで繋いだ「イタリアン・ファンタジー」、その後久しぶりのアメリカ演奏旅行に向けた「ホリデー・イン・USA」等、定期演奏会だけの為だけでない曲もいくつか作っていました。
この組曲はその後結局再演はされませんでしたが、当初作られた「鷺の歌」は好評で、時々演奏していただいたという記録も残っております。
「鳥の目覚め」と「小鳥のロンド」は鳥の囀りや小鳥が束になって鳴いているような雰囲気も醸し出しており、この2曲とも「賑やか」な曲なのに対し、真ん中の「鷺の歌」は短調で切々と歌い継がれる対比がなかなか面白かったと記憶しております。
そういえば服部正の自宅には面白い楽器がいくつか置いてありましたが、中でも極め付きが「OISEAU」と書かれた箱に入っていた物でした。フランス語で「鳥」の意味ですが、箱を開けると幾つもの仕切りが施され、その一つ一つに小さなおもちゃのような楽器が入っていました。そうです。「鳥の鳴き声」を出す笛のセットでした。
有名な「カッコウ」や「水鳥」だけでなく様々な鳥の鳴き声の模倣ができるセットだったのです。残念ながら服部正の生前にいつの間にか無くなってしまい、「借り物」だったのか、どなたか打楽器奏者等に寄贈したのか不明ですが、服部正は「鳥」という動物に何らかの親近感を持っていたのかもしれません。