「指揮者」としての服部正 (4)

服部正は指揮をするときに「テンポ」についてはかなりこだわりがあったと思われます。
テンポのメリハリは、かなりしっかりとした差をつける事を信条としていたようです。

以前某高校のマンドリンクラブの客演指揮をするために、練習に一度訪れた事の出来事です。

予定よりも早く練習場に到着した服部正は、自分が指揮する曲では無いモーツァルトの序曲を学生指揮者が指揮している場面を見て、すかさず「そんなテンポじゃだめだ。もっと速く」とボソッと言いました。指揮者も言われた通り少し速くしましたが、服部正は「まだまだ、もっと!」と声を大にして言いました。学生指揮者もムキになってさらに速く演奏をしました。
ところが、どうでしょうか。今まで何となく凡庸の演奏に聞こえたこの曲が一気に生気が入り、演奏しているメンバーの真剣度も上がり、服部正が直接指揮してなくてもこの曲が見事に生き返りました。演奏していた高校生も爽快感を感じていたようです。(ちなみに本番当日は、またもとのテンポに戻ってしまったようですが、、、)

服部正はだいたい速めのテンポが多いですが、ゆったりした曲やテンポを揺り動かす際の遅い部分はしっかりと遅くしながらも緊張感を保った演奏を繰り広げています。

これは慶應義塾マンドリンクラブ大学の定期演奏会の練習でのことです。

マンドリンアンサンブルのオリジナル曲「ボッタキアリ作曲イル・ボート(誓い)」という曲を演奏した時の事です。
この曲はマンドリンオリジナル曲としてはやや難解な曲で、練習の時に学生指揮者もかなり手こずっていました。服部正が練習に来るようになってこの曲を始めた時に、皆の目が変わりました。それもテンポの揺り動かし方が非常に細かく、小節単位で速くしたり遅くしたりのオンパレードだったのですが、いざ音に出して弾きながら聴いているとこの曲の「難解さ」が崩れ去り、演奏者も納得・感動した一つの「芸術作品」になりました。これはさすがに老練な音楽家でないと再現できない、という事をあからさまに思い知った経験でした。

やはりこのテンポ感というのは一般素人ではなかなか掴みにくく、短時間でオーケストラをその気にさせる、という技も含めて「現場で培った」指揮法が実現できたのでしょう。

このテンポの「メリハリ」は服部正の芸術的センスという面もありましたが、実は他にも大きな背景がありそうです。
というのも、昔ラジオ番組のバックミュージックを作曲、指揮をしていた時、今と違って「録音技術」が貧困で、ほとんどが「ぶっつけ本番生放送」だったので、番組の放送時間内に収めるための段取りは「ストップウォッチ」との格闘だったようです。「巻き」が入ると「アッチェレランド」し「伸ばし」の合図では「リット」というのは日常茶飯だったようです。編曲している時もそれを意識しながら編曲し、放送本番の時は楽団の前で必死にテンポ設定をやっていたようです。それだけ「テンポ」に振り回された時代があったことも無縁ではなさそうです。
今のデジタル社会ではとても信じられない環境だったようですね。

ALL KMCコンサート ステージリハーサルでの服部正(1980年代)
館長
1955年 服部正の長男として東京で生まれた。                     1978年 慶応義塾大学卒業(高校よりマンドリンクラブにてフルート担当)        同年    某大手電機メーカーに入社(営業業務担当)                  2015年 某大手電機メーカーグループ会社を定年退職                  現在 当館館長として「服部正」普及活動従事       

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