10月にご案内した「絃楽合奏団B-one演奏会」にて服部正の初期の作品「Dessin」が演奏されました。先日同曲を指揮して頂いた辻本氏から当日のパンフレットと音源を頂戴いたしました。
この場を借りて厚く御礼申し上げます。
この曲は昭和6年11月の慶應義塾マンドリンクラブ第37回定期演奏会で初演され、その1年後同志社大学マンドリンクラブでも演奏されましたが、それからの演奏の実績は全く残されておりませんでした。実は当館でもこの曲の譜面は存在せず、指揮者の辻本氏が様々なチャネルを使ってこの譜面を探し出し今回の演奏に至る事となりました。
パンフレットにも当日他に演奏された日本人作品(堀 清隆氏、大栗 裕氏)との人的関係について非常に貴重な情報が記載されておりました。
実はこの初演日の服部正の自筆日記が残っており、こちらも非常に興味深い内容が書かれております。
内容は以下の通りです。( )は館長の追記です。
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第37回の演奏会。感謝がある。
菅原(明朗)、武井(守成)両氏を迎ふ。
ああ僕もこれで6回目の音楽会。
実にKO(慶應)の為に何かしたと自信した。
これはうぬぼれではない。
もしソロイストとして宮田氏(元KMC指揮者、当時故人)をもってゐたら(いたら)よかったのに。
金之助氏(山田金之助氏、服部正の1代前のKMC指揮者)大いに助けてくれるので有難云。(ありがたい)
僕の曲はつまらなかった。
ファルボとストラヴィンスキ、ミラネージは大失敗。
あとで明朗(菅原氏)達とお茶をのむ。
楽しい苦い思いで。
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この文の「つまらなかった僕の曲」がまさにこの「Dessin」なのです。どうも服部正はこれ以降この曲の再演はおろか、譜面も自宅に留め置かずに放りだした可能性が高いと思われます。
またここに出てくる「ストラヴィンスキー」の作品はKMCの資料から類推すると「断章」「アンダンテ」と思われ(詳細不明)、これが実に菅原明朗氏の編曲によるものらしく、演奏の「大失敗」でお茶会での「苦い思いで」という下りに繋がっているとも思われます。(どう大失敗なのかは全く不明ですが、、、)
お送り頂いた音源をお聴きしましたが、まず「つまらなかった」とは思えないとても立派な演奏で、当時の服部正の感性を疑ってしまうようにも思えました。意外と管楽器、打楽器の位置づけが重要な作品のようでしたが、演奏も実にバランスの良い響きを出しておりました。
この度の演奏会における服部正作品の扱いも含め、改めて辻本氏をはじめとするB-one関係者各位の熱意に心より謝意を述べたいと思います。
本当にありがとうございました。