ある日譜面を整理していた時、思わず笑ってしまうような譜面が出現しました。
題名も「出来損ないの曲」!
マンドリン合奏のために書かれており、筆跡(譜跡と言った方が良いのか?)を見ると間違いなく服部正の戦後の作品と思われます。
3拍子の短調の曲ですが、ダルセーニョになるまでは順調に筆が進んでいたのでしょうか、万年筆でいつもの通り書いていたようです。
ところがコーダに飛んだところで鉛筆書きのデッサン的な書き方に変わってしまっており、しかもスコアと言いながらメロディーライン程度しか書かれていません。
そして唐突に譜面は終わってしまい、譜面の最下段に「これは失敗作」と明確に書かれた文字が付いていました。
題に書いてある「出来損ないの曲」も鉛筆で後から書かれたようであり、この曲にも様々な謎が潜んでいます。
しっかり残された「出来損ないの曲」。右ページの最下段に「これは失敗作」と明記
まずいつ頃の作品なのか?譜跡からすると昭和4~50年代ではないかと思われます。
何のために書かれたのか?これは全く不明です。
何故失敗作にもかかわらず題名部に「出来損ないの曲」とか最後部に「これは失敗作」と書き廃棄処分にしなかったのか?ますます不明です。
ひょっとしたら部分的なフレーズはまた別の機会に使えるかもしれない、という事で残したのでは、という推測もできます。
しかし以前記載した「同じ曲の編曲が複数存在」という事実から「以前の譜面を探すよりも自分で再度作った方が早い」という憶測もあるため、この譜面を残しておく必要性がどこまであったのか不思議に思ってしまいます。
ただ、言える事は譜面に限らず「捨てる」という行為はあまり服部正の日常行為では見かけなかったため、誰も捨てずに今日まで残ったと言う方が正しいかもしれません。
とにかく筆が早い服部正、放送局等からの要請にせっせと作編曲を行う中でも、このような試行錯誤の部分もあった、と思わせる何となく人間的な一面ものぞかせる作品でした。