この資料館を通じてご連絡を取らせて頂くようになった「ミッテンヴァルト」の代表 稲原様から先般メールが来て、「是非お見せしたいものがある」との事でお会いして参りました。
この「ミッテンヴァルト」は知られざる日本の作曲家の室内楽作品を掘り起こし、CD等で音楽愛好家等にご紹介していく、という大変意義のある活動をされていらっしゃいます。
そして先日お暑い中上野にてお会いしましたが、その時に持ってきていただいたのが「服部正作曲 クラリネット五重奏曲『鳥』」という曲の自筆スコアのコピーとMIDI化した譜面でした。
聞くところによると、稲原氏がNHKの所蔵物を念入りに調べ見つけ出したとのことであり、NHKの電子ファイル化されたスキャニング譜面のコピーを頂戴してきたとの事です。コピーを見る限りでは服部正の筆跡そのものであり、NHK(日本放送協会)と書かれた五線紙に万年筆で書かれ、譜面にはNHKの管理番号が付された印が押してありました。
まずびっくりしたのが「室内楽」それも「クラリネット五重奏曲」という、ある意味服部正が書くとしたらはるかに遠いクラシックジャンルの作品があった事です。
譜面の筆跡を見る限り、昭和30年前後と思われ、「鳥」という題名で各楽章にそれぞれ「鷲」「孔雀」「隼」と鳥の名前が副題として付けられていました。
過去服部正は「鶯」やその後「鷺の歌」を含めた「鳥の組曲」等、「鳥」にまつわる作品をいくつか作っており、この曲の副題については「さもありなん」と感じましたが、ここでまた「謎」が出てきました。
まず、何がきっかけでこの作品を書いたのか?NHKの五線紙に書かれ、NHKがしっかり電子ファイルとして所蔵管理しているので恐らくNHKからの依頼と思われますが、何かの番組関係の依頼なのか等その経緯も不明です。当時服部正も個別のクラリネット奏者との親交が特に深かった事実も希薄なので、自発的に「誰のため」という事も無さそうな気がします。
また、「お話出てこい」や「ヤン坊ニン坊トン坊」といったヒット番組の譜面は用済み後作曲者に譜面を送り返しているのに、なぜNHKがこの譜面をスキャニングしてまで保管していたのかも非常に気になります。
実は作曲年代も謎であり、NHKの管理番号の印に付されている番号とこちらにある「お話出てこい」等の管理番号を照合すると確かに昭和30年頃に合致しそうなのですが、五線紙の仕様が微妙に違っているようで(例えば「日本放送協會」のような旧字体使用等)管理番号の整合性も合ってないような気がしてなりません。
とはいえ、服部正にこのようなジャンルの作品が存在していた事自体が驚きであり、稲原氏のお話によれば「早速収録する手筈を整えている」との事ですので、実際の音になる事を大変期待しているところです。
稲原様、大変ありがとうございました。また録音収録とても楽しみにしております。
そして今後ともご活躍頂き、様々な未開拓邦人作品の発掘に期待しております。