服部正は自分が作曲・編曲した楽譜だけでなく、自分の勉強も含め膨大なスコアを保持していました。(スコアとはオーケストラ音楽の譜面をブックレットにしたようなもので、曲ごとに1冊になっていたりしたものです。)
たまたま私も聞いたり演奏したりするときに大いに参考になったのでかなり生前からお借りしていました。(というよりは勝手に自分の部屋に持っていってしまってました!)
しかしながら、やはり戦前の頃から集めていたスコアも結構存在し、正直紙がボロボロになる寸前のものも散見され、その修繕にも結構手間がかかりました。
ここにお見せするのはチャイコフスキーの管弦楽曲3曲のスコアです。
左側2冊(序曲1812年、イタリア奇想曲)はドイツのオイレンブルク版で比較的しっかりきれいに残っていますが、右側(スラヴ行進曲)は日本楽譜という出版社の国産品であり、綴じてある部分が非常に重傷で何と「ガムテープ」で補強した、といういい加減な修繕の有様です。
驚くべきことはそのスラヴ行進曲の裏側です。
価格が何と「90銭」!
昭和15年に発刊されており、よくよく調べてみると当時の貨幣価値からしてみると結構高価だったように思われます。
例えばネット情報によれば「はがき」は2銭(現在52円)、「かけそば」は15銭(現在400円程度)「生ビール1杯」は50銭(現在5~700円程度?)等、物によって必ずしも比較にはしにくいですがだいたい昭和15年の1円が今の1500円~2500円と考えると、このスラヴ行進曲だけでも2000円に匹敵してしまうわけですね。他の2曲は輸入版であり、さらに高いと思われます。
現在「音楽の友」社で出ている同曲のスコアは税抜き1300円なので、価値観に驚くほどの差があるわけでも無さそうですが、当時服部正はこういったスコアを結構買いあさっていたようでした。
考えてみればその頃はテレビもなく「娯楽」らしきものが現在とは全く違う様相を呈していたので、酒をあまり飲まない服部正からしてみればこういった物への投資がやりやすかったのでしょうね。