服部正、学生に宛てた手紙

服部正が最も忙しかった昭和40年頃までが過ぎると、多少余裕が出てきたのか慶応義塾マンドリンクラブを中心に学生たちに盛んに「はっぱをかける」行為が増えてきたようです。
今回OBの方から当時の手紙のコピーを頂戴致しました。いわゆる「檄文」とでもいう物でしょうか。

学生に宛てた「檄文?」コピー

一つは当時NHKが積極的に推進していた「青少年音楽日本音楽連合」、いわゆる「ジュネス」と呼ばれた活動で、当時の大学の音楽系クラブに所属していたメンバーが一堂に会して演奏会を行うといったイベントで、服部正がマンドリン合奏部門を指揮する事になった際の各大学マンドリンクラブ宛に送った書状です。
要は、同じコンサートで出演する「管弦楽」「合唱」のメンバーは非常に精鋭揃いで出演にも「狭き門」と言われるのに対し、「マンドリン」が多少緩いイメージが拭えず、このままではジュネスそのものからマンドリン部門が抹殺させられてしまうかもしれないという憂慮から出したと言われています。
もう一つは母校の慶応義塾マンドリンクラブ学生に宛てたコメントで、そもそものマンドリン合奏に向けての「あるべき姿」を項目に分けて書かれた内容です。
学校におけるマンドリンクラブ活動でのそれぞれの楽器の上達については、一般オケの楽器レッスンのようにどこかの先生に通っている、というケースはなかなか当時は無かったのではと思われ、ほとんどが先輩からの上位下達(?!)に任されていた部分が多かったのではと思われます。
従ってそもそものマンドリン合奏についての「うんちく」を語る人が固定されず我流での踏襲も散見され、恐らくその光景を服部正も非常に気になっていたのかもしれません。

この文章は決して今でも通用しない話では無さそうなので、ご紹介いたします。
特に下記7番、8番はマンドリン合奏に限らず一般的にも再認識が必要かもしれません。
(最後の部分がコピーからはみ出してしまいましたので、想定で追記しております。
 又、漢字等一部変換しております。)

KMCの諸君、諸嬢に期待する8項  服部正

1.調弦は何を措いても正確である事 !
 (調弦の不正は調音の狂ったピアノと同じなり)
2.楽器を持った時、その響板は体面と並行である事。
 (響板は絶対に上向きにならぬ事)
3.ピックは弦を直角に叩く事。薄いピックは無用。
 (斜めに叩く事は絶対に ×
4.弦を抑える左手の指を指板から速く離すことは余韻を消すことになるので、
  音色は冴えず、マンドリンの余韻の美しさが消え、
  マンドリン音楽の魅力と特色が失われる。
  美しい余韻を響かせるスタッカト奏法を工夫せよ。
5.マンドラ、マンドローネ、マンドチェロの低音弦は太いので、
  この太さに耐えられる厚めのピックが必要である。
  弦の太さに適切な厚いピックを用意する事。
  又、弦の太さに応じてトレモロの速度を変える事が望ましい。
  太くなればトレモロの頻度は減らす事が望ましい。
6.ギターの左手の握力は絶対に強くなければならぬ。
  又、コードでなく、メロディをを演奏する場合は左手のヴィブラートが必要である。
  特にギター奏者は自ら演奏するサウンドがオーケストラの合奏者に美しく
  溶け込む事が望まれる。
  フレットの左手の位置をよく留意して、音色の変化を自由に表現して欲しい。
7.自らの演奏する音が合奏全体の音響に融けこんでいるか?よく確認してほしい。
8.美しい合奏音を実現するためには自分の演奏音が極めて効果的に合奏音の中に
  融け込む事が必要である。
  その時初めて最高のマンドリン合奏〔が実現できる。〕(〔〕内想定文)

本書状をご提供いただいたOBの方にこの場を借りて御礼申し上げます。
ありがとうございました。

館長
1955年 服部正の長男として東京で生まれた。                     1978年 慶応義塾大学卒業(高校よりマンドリンクラブにてフルート担当)        同年    某大手電機メーカーに入社(営業業務担当)                  2015年 某大手電機メーカーグループ会社を定年退職                  現在 当館館長として「服部正」普及活動従事       

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