この曲は昭和6年(1931年)の3月に作曲されたオーケストラのための作品です。
編成は木管楽器+ホルン、ピアノ、打楽器と弦楽合奏です。
昭和6年の3月というと服部正が大学を卒業し、いやいやながら就職する直前の時期です。
はたして、当時の日記には「気持ちよく書いている」と記されている一方で就職に対する憂鬱感を日に日に増大させている事もあわせて書かれていました。
サラリーマンにはなりたくない、音楽家になりたい、という気持ちを抑えきれずに譜面に書きこんでいたのかもしれません。
この譜面も初期の例に違わず丁寧に五線譜に書かれていましたが、実は譜面の表紙が実に特徴があり、なかなか洒落た絵が描かれています。曲名が「デッサン」という事もあったのか、副題の「マントルとビール」のどうも「ビール」にあやかった瓶が描かれています。
正直、服部正は音楽はともかくとして「絵心」やそのテクニックをどこまで持っていたかは全く不明で、この絵を本当に服部正が描いたのか、それとも誰かに描いて頂いたのかははっきり言って「謎」です。
また当時は日本はドイツ、イタリア音楽がはびこっている中、こういう「フランス語」による曲の題名を作る事も何が起因しているのかも今一つよくわかっていません。
先般紹介した「びらうど」もフランスの作曲家「フォーレ」的な作品なので当時から服部正がフランス音楽に相当傾注していた痕跡はありますが、これも「謎」です。
以前ご紹介した「旗」シリーズから先立つこと4~5年になりますが、正式な管弦楽曲としては処女作にあたる可能性もあります。