昨年の末頃に「コンコルディア」というマンドリンオーケストラを指揮されている「横澤恒様」からこの資料館の問い合わせ経由でメールをいただきました。そのオーケストラで本年6月に行われる定期演奏会にて「服部正の曲を演奏したい」とのお話で、曲は「陸をゆく」との事でした。
まずこの曲名は聞いたことが無く、当然当館にも譜面は残っておりませんでした。思い起こせば小生が学生時代にKMCの定演で武井守成氏の「空をゆく」という曲をやった事は覚えており、その関係かと思ったところ「大当たり」で、他に大澤壽人氏の「海をゆく」という曲を合わせて行進曲3部作をやられるという事でした。聞くところによるとNHK大阪放送局が 戦時中にの1942年の 海軍記念日にこの3曲の企画、放送がされたという事でした。
先日横澤様のご厚意で練習にお邪魔し、その「陸をゆく」を聴いて参りましたが、曲想、雰囲気とも服部正ならではの特徴が至る所にあり、間違いなく服部正の作品と判断できる素晴らしい演奏をしていただきました。その時に当館に無い譜面のコピーも頂戴致しました。服部正としては比較的きれいな楽譜の書き方でしたが、服部正の直筆と思われる特徴も随所に見受けられます。
服部正としては比較的珍しい「短調の行進曲」ですが、Trioの「長調」の部分も含め軽快で何故か暗くない作品と感じました。
「空」「陸」「海」、そして戦時中 (作曲時期は1942年なので、終戦の3年前です。) の作品となれば、これは当然「空軍」「陸軍」「海軍」を意味していると思われる作品であり、血気盛んな日本軍を鼓舞すべく企画されたものと想像ができます。
過去定演で演奏した武井氏の「空をゆく」は極めて明るくのんびりしたようなイメージもあったので、当時は「セスナ機で大空を飛んできれいな風景を見ているような曲」というような背景を勝手に想像してしまい、戦争コテコテの背景の曲とは思いませんでした。
この定演で「空をゆく」の演奏に際しても指揮をしていた服部正は自身が「陸を行く」を作っていた、というようなことはほとんど口にしておらず、この作品の存在はひょっとしたら慶應関係者で知っている人はほとんどいらっしゃらないかもしれません。
どうも服部正は戦時中にまつわる自身の作品について、戦後完全に封印してしまったのではと思われます。学徒出陣で演奏された「海の組曲」も再演は全くされず、この「陸をゆく」の譜面も慶應関係ではないところから発掘されたとの事でした。
しかし服部正の作品をこうやって掘り起こしていただき演奏の機会を作っていただいたことは大変光栄であり感謝の念に絶えません。特に出身母体の慶應と関係が薄い組織でのご採用というのは本当に嬉しく、以前ご紹介したB-oneの「斑蝶」に続く実績となりそうです。
その演奏会のパンフレットを頂戴しましたので、こちらに掲載させていただきます。
また日程が近くなりましたらご案内いたします。
横澤様、大変ありがとうございました。