先日当資料館にご連絡があり、服部正の作曲した「伝研の歌」の音源の広報誌への掲載のご意向伺いがございました。そのご依頼元が「東京大学医科学研究所」という聞くだけでも緊張してしまう組織の方からでした。
まずそもそもそういう曲が存在していた事が初耳であり、早速譜面等を送っていただきました。
「伝研」というのは「伝染病研究所」の略であり、1892年に現在の新千円札紙幣のデザインに書かれている北里柴三郎先生他の皆さんが設立された組織で、1937年にこの「伝研の歌」が作られるにあたり服部正が作曲を担当することになったそうです。
(資料:東京大学医科学研究所殿のご協力により入手)
1937年と言えば服部正が29歳で大学を卒業して5~6年後という、音楽界に入ってからまだ間もない時期であり、どういう経緯で服部正に話が来たのかは不明ですが、まさに当時としては服部正も「来た仕事は全精力を尽くしてやる」という時代のスタート時期でした。
作曲活動はこれから脂がのり始める時期でもあり、送って頂いた譜面を拝見しても何となく服部正らしいフレーズが随所に施されているように思えました。
また一緒に送られた手書きの譜面もございましたが、こちらにつきましては服部正の直筆ではなく、恐らく合唱団の関係者の写譜によるもの(あまりにも綺麗な筆跡なので、、、)と思われました。
いずれにせよ未知の曲との遭遇に当方も舞い上がった次第です。
前記の通り1937年というと、服部正が初めて自分の作品だけのリサイタル演奏会をやった翌年であり、いよいよ音楽家としての本格的活動に乗り出した時期の作品として大変貴重な存在であることは間違いなく、しかも自身の卒業校でない大学との依頼等不明な部分はあるものの積極的な音楽活動の片鱗を伺えるものとして当資料館でも重要な資料としてお預かりさせて頂きました。
(この曲が作曲された3年後に以前ご紹介した「京都府立医科大学歌」を作曲する等、医大関係のお付き合いが重なってきているのも偶然なのか想いを馳せておりました。)
掲載のご依頼につきましてはもちろん快諾致しましたので、いずれ関係の皆様にはお耳に触れる事になるかと思います。
東京大学医科学研究所の関係者の皆様には、貴重な情報のご連絡、ご提供と、作曲後90年近くたった曲を大事に取り扱い頂いている事に心より御礼申し上げると共に、私たちの健康や長寿に向けた現在までのご尽力に対し改めて感謝申し上げ、今後の医療界でさらなるご活躍を祈念したいと存じます。